数字でポケモンを考える その3
数字でポケモンを考える第3回です
今回はポケモン対戦におけるアドバンテージを数字で考えていきたいと思います
基本的にポケモン対戦とは,「相手にダメージを与えて倒す」ことが重要だと考えられます
実際の対戦では素早さによる行動順や補助技の使用などさまざまな要素により複雑なものになりますが,単純に考えるために,
「ターン終了時,相手より多くのダメージを与えていればアドバンテージを得ている」
と考えることにします
今後のために文字を使って表すと
自分が相手に与えるダメージ(与ダメージ)をx%
相手が自分に与えるダメージ(被ダメージ)をy%
としたとき
x>yならアドバンテージを得ている
x<yならアドバンテージを取られている
となります
また,攻撃側に注目した場合,xを獲得してyを失ったと見ることができるので攻撃側のアドバンテージは
x-y で求めることができます
こうして求めた値をADVANTAGE値を略してADVAN値と定義します(特に深い意味はないです)
ADVAN値が0より大きければ有利,0より小さければ不利となります。わかりやすいですね
この条件で,今回の本題である
「いばるでアドバンテージは取れるのか」
ということについて考えていきます
使用ポケモンを適当に設定します
いばる側
<いばるならまかせろー
いばられる側
<思考停止いばるやめーや
ピクシー@何か(ムーンフォース/何か/何か/何か)
この条件でボルトロスがピクシーに10まんボルトで与えるダメージがx,
ピクシーがボルトロスにムーンフォースで与えるダメージがyとなります
HBボルトロス→HBピクシー が33.1~40.0%
HBピクシー→HBボルトロス が33.8~40.3%
xもyもだいたい36%ぐらいですかね
両者が普通に攻撃した場合のADVAN値はx-yです
ここから,ボルトロスがいばるを撃つことを考えていきます
いばるの詳しい効果については昔の記事で書いているのでそちらを見てもらうとして,
実際にシミュレーションしていきます
1ターン目
ボルトロス いばる
ピクシー 攻撃
1.いばる命中 ピクシー自傷
2.いばる命中 ピクシー行動
3.いばる外れ ピクシー行動
1.でのADVAN値を求める前にいばるを撃ったターンのアドバンテージの扱いについて考えます
攻撃によるxの獲得は「1ターンの行動を消費して,対価としてxを得る」と考えることができるので,
いばるを撃ったとき「攻撃によるxを獲得できず,xの価値がある1ターンの行動も消費してしまった」と考えられ,アドバンテージは"0"ではなく"ーx"となります
では,このことを考慮しつつ1.~3.のADVAN値を計算していきます
1.確率は9/10*1/2
ADVAN値は-x+y+c(cは自傷ダメージによるダメージ割合)
+yとなるのも相手による攻撃を受けず,しかも相手の行動を消費した,という考えです
2.確率は9/10*1/2
ADVAN値は-x-y
3.確率は1/10
ADVAN値は-x-y
以上より1ターン目終了時のADVAN値の期待値は
9/20*(-x+y+c) + 9/20*(-x-y) + 1/10*(-x-y) = -x -1/10*y +9/20*c となります
このADVAN値が通常攻撃した際のADVAN値x-yより大きくなるのは
-x -1/10*y +9/20*c > x-y を解いて
x < 9/20 * y + 9/40 * c となります
cの自傷ダメージは些細なものとして丸めると,だいたい与ダメージが被ダメージの半分より小さいときはいばるを撃ったほうが得となります
x=y=36を代入すると負の数字になるのでいばるを撃つと損ですね
1ターン目でいばるがアドを取れる条件はかなり厳しいことがわかります
2ターン目
1ターン目でいばるが命中した場合(1.2.の派生)
相手は混乱しているのでボルトロスは攻撃する
混乱中の相手にいばるのはさすがにNG
( i )混乱解除 ピクシー行動
( ii )混乱継続 ピクシー自傷
( iii )混乱継続 ピクシー行動
それぞれ計算
( i ) 確率は1/4
ADVAN値 x-y
( ii ) 確率は3/8
ADVAN値 x+y+c
( iii ) 確率は3/8
ADVAN値 x-y
(i)~(iii)の小計 1/4*(x-y) + 3/8*(x+y+c) + 3/8*(x-y)
= x- 1/4*y + 3/8*c
1ターン目でいばるが外れた場合(3.の派生)
ボルトロスはいばる
( iv ) いばる命中 ピクシー自傷
( v ) いばる命中 ピクシー行動
( vi ) いばる外れ ピクシー行動
1ターン目と同様に考えてADVAN値は(-x -1/10*y +9/20*c)
以上より,2ターン目のADVAN値の期待値は
9/10 * (x- 1/4*y + 3/8*c) + 1/10 * (-x -1/10*y +9/20*c)
= 4/5 * x - 47/200 * y + 153/400 * c
これと1ターン目の期待値を合計して
(-x -1/10*y +9/20*c) + (4/5 * x - 47/200 * y + 153/400 * c)
= -1/5 * x - 67/200 * y + 333/400 * c
2ターン目まで通常攻撃を繰り返した場合のADVAN値は2x-2y
1ターン目いばるで2ターン目にアドバンテージを取れる条件は
-1/5 * x - 67/200 * y + 333/400 * c > 2x-2y
これを解いて
x < 333/440 * y + 333/880 * c
333/440はだいたい330/440なので近似して
x < 3/4 * y
与ダメージが被ダメージの0.75倍以下で,両者とも2ターン生存するなら,いばるを撃ったほうが得
x=y=36のときは2ターン目でも得になりません
3ターン目も同様に計算するとだいたい
x < 12/13 * y ぐらいになります
3ターン目まで両方生き残ることはあまりないので参考程度の値です
与ダメージが被ダメージよりかなり小さいときは得になるときがありますが,基本的には損することが多いでしょう
ちなみに今までは特殊相手にいばることを考えてきましたが,物理相手にいばるときのことも考えてみましょう
物理にいばる場合,いばるによる攻撃ランクの変化があるので被ダメージyの値が変動します
ADVAN値を計算すると1ターン目は特殊と同じく-x -1/10*y +9/20*c
2ターン目は-1/5 * x - 14/25 * y + 333/400 * cとなります
2ターン目でいばる側が有利になる条件はだいたい x < 0.6 * y ぐらいになります
数字だけで見るといばるは”相手に与えるダメージが少なくないとアドバンテージがとれない技”,ということが言えそうです
少なくとも,ボルトロスのようにある程度火力が期待できるポケモンが積極的に採用する技ではないということは言えると思います
この計算はシングルバトルかつ相手が交代しないという特殊な条件を設定しているので過信は禁物ですが,低火力高耐久ポケモンでのいばるの採用はある程度合理的とみてもいいかもしれません
ボルトロス対面でいばられたら祈りましょう
今回はこのようなかたちで,いばるによるアドバンテージという漠然としたものを数字で定量化してみました
アドバンテージの定義によっては有利になることがあるかもしれませんが,今回は「思考停止いばるは基本的によくない」ということを結論としておきます
その4のネタは引き続き募集してます